社会性の人類学的探究 トランスカルチャー状況と寛容/不寛容の機序

2010年7月24日第3回研究会 小松かおり発表要旨

日常からブランドへ -在来品種の商品化
静岡大学 小松かおり

【発表要旨】 

 家畜と作物は、人間と関わる「もの」の中で特異な位置にある。生き物としての自律性が高い野生植物に対して、家畜や作物は、人間に管理されることで生き物としての形質や性質を変えてきた「人工物」の側面をもつ。しかし一方で、それらは生き物である限り、人間が完全に生殖や生育を支配することはできず、種の中のさまざまなレベルでの多様性(品種や個体差)をもつ。ある家畜や作物と人間の関係の厳密さは、人間の文化的指向性や動植物の生物としての特徴によって異なる。一般的に「在来品種」と呼ばれる家畜や作物は、管理の程度が低く、生物としての多様性を認める傾向が強いが、大規模な商品化は、均質な品質を求める流通業者と消費者によって、多様性が減少することが多い。本発表では、バナナとブタというふたつの生き物を例に、在来品種が商品化されるときに起こる多様性の減少過程を紹介した。

 バナナの例は、インドネシアのスラウェシ島南部を事例に、地域ごとに多品種が見られるバナナが大規模市場に出荷される際に、さまざまな行程で多様性が減少することを示し、規格化の程度は、消費者がバナナに対する分類や利用の知識を生産者と共有している程度に比例しているという仮説を示した。

 ブタの例は、沖縄で数十年前に絶滅したと思われていた「幻のブタ」アグーの復活と商業化の過程を追い、在来品種が商品化するときのさまざまなジレンマについて紹介した。

 在来作物の商品化には、地域の商品流通が活発になる過程における商品化と、大量生産による一部品種のブランド化以後におきる稀少品種のブランド化のふたつの段階がある。バナナの例では前者を、ブタの例では後者について分析し、農耕・牧畜文化と広域な商品化のあいだにある家畜/作物と人間の関係について考察した。

参考文献
小松かおり 2007「在来家畜の商品化 --沖縄在来豚『アグー』の復活」河合香吏編『生きる場の人類学 --土地と自然の認識・実践・表象過程』 京都大学学術出版会 pp. 365-385
小松かおり 2007『沖縄の市場<マチグヮー>文化誌』ボーダーインク
小松かおり・北西功一・丸尾聡・塙狼星 2006「バナナ栽培文化のアジア・アフリカ地域間比較―品種多様性をめぐって―」『アジア・アフリカ地域研究』6-1 pp.77-119
小松かおり 2009年「バナナの商品化と品種多様性 --インドネシア・南スラウェシの事例から」山本紀夫編『国立民族学博物館調査報告 84 ドメスティケーション--その民族生物学的研究--』国立民族学博物館、pp.445-466