社会性の人類学的探究 トランスカルチャー状況と寛容/不寛容の機序

写真展「あそぶ・まなぶ・はたらく―アジア・アフリカのこどもたち―」2011

写真展「あそぶ・まなぶ・はたらく―アジア・アフリカのこどもたち―」

予告篇 YouTube】(42秒)asobu_manabu2011.jpg

[会期] 2011年11月14日(月)~2012年3月2日(金)9時30分より17時まで
   (土・日・祝日および12月29日~1月3日は休場)
[会場] 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所1階資料展示室
[入場料] 無料
[主催] 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
    基幹研究「人類学におけるミクロ‐マクロ系の連関」

人類学者とこどもたち ―写真展によせて 

  フィールドワーク(臨地調査)において心ひそかに感謝の念を捧げたい人物として、異邦人を受け入れてくれたホスト・ファミリーといっしょに、こどもたちをあげることに異論のある人類学者はまずいないと思う。
  見知らぬだけではなく、なぜそこにやって来て住んでいるのかの理由さえ明らかではなく、自分たちのことばや習慣についてもほとんど何も知らないガイジンやよそ者、そんな人間に自ら近づいてくる大人は少ない。よしんばそのような大人がいたとしても、ガイジンやよそ者をうまく利用してやろうとの魂胆や下心が透けて見える。
  しかし、どんな文化や社会においてもこどもたちは好奇心の塊。「近寄るんじゃないよ。取って喰われちゃうかもしれないんだから!」との親たちの声を背にしても、戸口の奥や家の角に潜んだ好奇心は、そのはじける時を待っている。やがて、数人のこどもたちと出会うと「こんにちは」と、このガイジン、俺たちのことばがわかるのかどうかとばかりに、さぐりの一発がおずおずと放たれる。「こんにちは」とこちらが答えれば、「わ~!」っと意味もなくあがる歓声。そうなれば、もう好奇心は堰を切ったようにほとばしり始める。「どこから来たの?」、「ここで何してるの?」、「名前は?」、「何で髪切らないの?」などなど。拙い覚えたてのことばで防戦に努めるが、敵に塩を送るようなもの。その夜のこどもたちの家庭では、「ねえねえ、今度来たガイジンってさ、こうなんだよ」と親兄弟に早速その日の出来事の報告におよぶと共に、「あのガイジンさ、大人なのに、こんなことばや、こんなことも知らないんだよ。おかしいよね~」と言った会話で大いに盛りあがったにちがいない。
  社会関係への導きの糸がこどもたちならば、ことばや習慣を教えてくれるのもまたこどもたちである。「あのさ、これ何か知ってる?」、「このことばわかる?」、「日本まで自動車でどれくらいかかるの?」、暇つぶしの格好のネタを見つけたこどもたちにとって、人類学者は彼らの旺盛な好奇心の調査対象の一つ。しかしながら、この調査対象、彼らや彼女たちの2歳や3歳の弟や妹よりもものを覚えることにおいてよほどできが悪い。こうして、人類学者は調査することとは、調査されることであることを肌で学ぶ。
  この写真展は、アジア・アフリカ言語文化研究所の人類学研究者たちが、アジア・アフリカのフィールドの現場において、出会ったこどもたちの多様な日常生活の一瞬を、フレームの大きさに切り取ったものである。あそぶ・まなぶ・はたらく、こどもの世界は一時も止まることがない。そのようなこどもたちの世界とそこに秘められた個別の物語を、これらの写真一枚一枚から、見る人一人一人が自分なりに紡ぎ出してくれることを強く願う。
        
  基幹研究「人類学におけるミクロ-マクロ系の連関」代表 深澤 秀夫